現実と焚き火夕方、職場から一歩外に出たらうっとりとするほどの風の気持ち良さだったので外で一杯やることにした。スーパーでノンアルコール飲料3本とポテトチップスを買い、帰宅するやいなや我が家の敷地の川を見下ろせる場所に行き、ガスバーナーで適当に火をおこし、出してきたキャンプ用の椅子にどかっと座り缶とポテトチップスを開けた。空を見上げると半月と星がきれいだった。あたりは静かで、ぱちぱちと火が爆ぜる音と水量が減った川のせせらぎと、時折上空を通過していく飛行機の音がする。焚き火に良い季節になった。と、ぼんやりと椅子に座って焚き火を眺めていたのはポテトチップスの袋を開け終わるせいぜい15分程度のことで、元から小さな焚き火の火が小さくなったら、すぐに家に引き上げた。母家に入るや私を見つけた犬と猫が、わんわんとひぎゃーの大合唱。そこまで鳴かれると仕事はともかくも、買い物の1時間と焚き火をしていた15分が少し申し訳なくなる。犬猫それぞれにご飯を出して、台所の椅子で一息ついて残っていた1本のノンアル...2021.10.14 12:10
つまらない人W氏の文学の授業はとてもつまらなかった。2年次までに履修する教養科目で簡単に単位が取れると、友人知人なんてろくにいなかった私が知っているほどで、無気力な学生だった私は一も二もなく履修した。噂通りで、マイクを通しているはずなのにボソボソと、まるで学生など存在せず虚空に独り言を繰っているようだった。私も一向にやる気などあるわけもなく、可も不可もなく約束された単位を取得した。2年後、簡単に単位をくれそうだし自由にさせてくれそうだからという非積極的な理由で私はW氏のゼミに入った。ゼミの授業は予想を上回るつまらなさで、その時に氏の頭の中にある興味を、つらつらと取り留めなく話すのだった。学生を自分の思考を整理する道具にしているのは明らかで、なぜか私と一緒に同じゼミに入った真面目な同期は、授業終わりにぷりぷりと怒っていた。私が怒っていたかはよく覚えていない。それでも彼女と一緒に悪口を言っていたとは思う。W氏は2年間面倒をみた学生の名前を覚えないという、大半の学生に興味のない人だった...2021.10.13 11:21
家族紹介午後7時、台所に家族全員集合。犬も猫もご飯を食べ終えて台所の中で各々自由にしている。犬はご飯を残しているにも関わらず何か食べるものが落ちていないかくんくんと探し、猫はキッチンマットに寝そべりながら犬を観察して飛びかかるタイミングを狙っている。猫は生後5ヶ月ほどでわんぱく盛りのかまって欲しがりなので、犬に猫の相手をしてもらって、猫がパソコンの邪魔をしてくるのを防ごうという私の魂胆からの一家団欒の時間。里山の家に暮らし始めてもう1年半が経とうとしている。自分の体感では3ヶ月くらいだけれど、季節は二巡目だし、犬が来てから10ヶ月、猫が来てから4ヶ月になろうとするのだから、とても不思議だ。犬はお嬢という。ちゃんとした名前もあるけれど、人から預かって我が家に居候しているのでそう呼んでいる。昨年末に我が家にやってきた。散歩とご飯の時だけ威勢がいいけれど、なかなかの怖がりで家の中で寝るのが好きな引きこもり気味犬だ。猫はあめと名付けた。お嬢がやってきたきっかり半年後の深夜、我が家の玄...2021.10.12 11:49
近況?再開はいつも突然いつの間にか2021年の終わりが見えてきて、ここに久しぶりに記事を書くたびに言っていることですが、時の流れの早さにびっくりしています。前回の記事を書いたのは2020年7月、米作りと家のことに疲れ果て長崎の小浜温泉にプチ逃避行をした時のことでした。泊まったホテルの大浴場の浴槽のタイルがあまりにも見事でまた行きたくてしょうがないです。2020年の7月から今現在まで、個人的にさまざまなことが変化しました。早朝の仕事を始めたこと、骨折して2ヶ月半の自宅療養をしたこと、犬がやってきたこと、猫がやってきたこと。その間に全くと言っていいほど文章を書くこと編集することができなくなり、耳納新聞の発行と新たに立ち上げるウェブメディアの準備が滞っていました。2020年後半の無理が祟ったのと、メディアの準備で燃え尽きてしまったというのが大きいと思いますが、そうこうしているうちに二度目の米作りが始まり、9月初旬にようやく終わって今に至っています。この目まぐるしく色々なことが起こ...2021.10.11 12:21
海を見に。海沿いの温泉にやってきた。もうもうと湯煙の上がるどこかひなびた温泉地。まだ温泉が好きではなかった頃、旅行中に通りがかりその湯煙とかつての繁栄とがぎゅっと凝縮された風情の街並みがずっと心の中に引っかかっていた場所。この街に、海を見にきた。それはもう、衝動的に。時勢を考えると移動することや旅行というものを控えるべきだったかもしれないし、昨日は睡眠も体力も足りていなかったし、翌日の昼には地元で約束もあり、片道2時間の運転をして出かけることなどあまりにも馬鹿げている。けれど、それをせずにはいられない時だった。夕方頃に着き、目の前に海が広がる温泉に入り、地元の良い感じの酒屋でスパークリングワイン、瓶ビールとシードルと栓抜き、店のおすすめの柚子胡椒と酒粕でつけたクリームチーズとウニ豆を買い、防波堤で1人飲む。温泉とアルコールで火照った身体に、海の風が心地よい。瓶ビールはハートランドで、それはこの2ヶ月の間に私が小塩の家で好んで飲んでいたものだけれど、不思議と美味しくなかった。たぶ...2020.07.15 20:04
庭木のこと だんだんと庭の草花が芽吹いたり咲いたりしはじめています。 足元の小さな花々が愛らしくて思わず寝転んで写真を撮りました。やっぱり寝転ぶとふだん自分の見ているのとはまったく違う世界が立ち上ってきます。 オオイヌノフグリ、菫、タネツケバナ、ナズナ、ホトケノザ。 きっと春は足元の世界からやってきて、広がっていくのでしょう。 庭には木もあります。雪柳は六部咲きぐらい。もともと雪柳は好きで今か今かと咲くのを楽しみにしていたのですが、昨日不意に近くを通ったらそのつぼみの描く曲線の美しさや可憐な白さに悶絶してしまいました。桜の蕾はすこし膨らんできて、今は淡い緑に色づいている感じ。紫陽花は芽吹いてきました。 昨日は父と一緒に切った木の片付けなどをしていたのですが、桜や雪柳が自分の家のものになるなんて去年の今頃には思っていなかったねという話になりました。 我が家の桜の木は樹齢40年ほどのものが3本あります。立派かつ枝ぶりというか姿が美しく、今年の開花が待ち遠しくて仕方ありません。これほ...2020.03.14 00:44
不在 雪がうっすらと積もった朝、知人の訃報を耳にした。 私はその人ののりが大嫌いだった。仲間内ののりというものを大事にしていて、少し変わった人、つまりコミュニケーションにやや難のある人を馬鹿にしていて、その空気を同じクラスの中に伝播しようとしていた。彼らがバカにしていた中に私は確実に入っていただろう。 人はいくつになっても群れて嘲るという事実は、いつも身にこたえるし慣れることができない。人は人で、個性的なところを互いに認め合うか干渉しないで生きていけると私は信じている。けれど、私のふだんいる場所から一歩踏み出すと、世界はそんなに優しい場所ではないとあらためて教えられる。教えてくれるのはいつも彼のような存在だった。 だからといって、彼自身を嫌いだったわけではない(好きでもなかったけれど)。彼にはある種の繊細さがあった。それは彼の認められたい相手、自分が良しとした仲間の意図に沿った動きをするという繊細さだった。 頭の回転も記憶力もとても良い人だったけれど、それらを自分のもてる...2020.02.19 15:29
集まりに参加することのまずさ このところ、内輪の集まりで人と話し合ったり議論する場に呼ばれることが増えてきました。 あるテーマについて人の意見を聞いてお互いが思うことを話し、そしてお互いの考えを変化させ問題を解決しようとする。そのプロセスはとても気持ちのいいものです。互いの言語的コミュニケーションにより侵食し侵食され、新たなものを生み出しているという感覚。自分やその場にいる人を肯定し、高揚感やかなりの満足感が得られます。 集まりに呼ばれること自体はとてもありがたいことなのですが、私にはそれが短期的なコミュニケーションの快楽を得て満足している、その感覚に私自分自身が酔っている状態なのかもしれないと思うのです。もちろん議題に興味があるから参加しているのですが、集まり会合に呼ばれているということが自尊心をくすぐり、なおかつ自分の言葉が人に聞き入れられているというのはとても蠱惑的な魅力があります。 ですが、参加するために時間を割くこと、議題のために考えること、コミュニケーションのために使う労力、興奮を冷...2020.02.14 16:52
いい人についてのつらつら。 あなたは良い人ですか?と聞かれたら、答えは決まっています。「いいえ、絶対にいい人ではありません」と。 そもそもいい人かどうかなんて聞くものでもないし、聞いたところで本音なんて出ないんだろうと思うわけですが、それ自体が私のひねくれた考え方かもしれません。たぶん真正面から同じ質問をされた時に、自信を持って自分自身をいい人と断言できる人はどこかにいて、そしてその人は本当にいい人か人を利用することに長けた悪人でしょう。 私が心の底から「この人はいい人だなあ」と思う人が一人いるのですが、その人は人のことを決して悪く言わず、誰かの問題な行動があったとしても批判的に見るのではなく何かしら事情があるものとして見ています。そんな人の隣にいると、いい人というのはいるもんだなあと思います。ですが、いい人がその心の清らかさに比例するように恵まれているかと言えば決してそんなことなくて、もっともっと評価されたり認められていいのになあと日々悶々としています。完全に余計なお世話なんですけど。 私が...2020.02.08 16:08
タイムスリップのような日々 ふと気がつけば、2020年になっているし、その2020年もすでにひと月が経っています。 ふと気がつけばなんて書いてみましたが、前回記事を書いたのは9月のことで、あれから5ヶ月も経っているのですから時間というのはなんとも恐ろしいものです。自分の感覚としてはまるでふっと今という時間の中に放り込まれたような気分です。 もちろん色んなことが起こっていました。古い事務所をリノベーションしていたし、耳納新聞という新しく始めたフリーペーパーを2号分と別冊テヒマニという小冊子を1号作り、事務所のある小塩という集落の方にしめ飾り作りを教わったり、お正月の鬼火焚きの準備などを見させてもらったりと、十分すぎるほど楽しく充実した日々でした。 と同時に、いろんな痛みも多かった日々でした。自分の弱さやずるさとか卑怯なところ、人を傷つけることがあること、人付き合いが苦手なことなどをまた改めて反芻させられたような。 どうやら10月ぐらいからぐっと気分的に落ちこんでいるらしいのですが、今がそこを抜け...2020.02.03 09:31
非合理にしか生きられない。 9月12日。 正直、日々の時の経つのの早さにびっくりする近頃です。 最近はここに何かを書くのもめっきりへってしまいました。それは、身の回りの変化が多すぎて、文章を書こうと思えるほどに自分と向き合う時間がとれなかったからなのかもしれません。一時期はほぼ毎日ぐらい更新していたのですから、ずいぶんな変化です。 それに本を読むこともほとんど出来ていないのですから、文章を書く力はかなり鈍くなっているはずです。じゃあ鋭い時があったのかといわれると、なんとも言えないところなのですが。 前回、ここを更新したのは6月3日、3ヶ月前のことです。この3〜4ヶ月に何があったかといえば、5月末にテヒマニの編集室となる物件の交渉に入り、6月末に耳納新聞の3号目を発行、7月は編集室の準備をし、8月半ばにテヒマニvol.4の発行とテヒマニ編集室のリノベーション工事の着工。今現在は耳納新聞4号目の編集が大詰めに入ったところです。 自分からしてみるととっても忙しかったなあと思うわけなのですが、この期間...2019.09.11 21:55
結局のところは体力。 近頃、この半年ほどの出不精が嘘みたいに動き回っています。自分でもちょっとおかしいんじゃない?ってくらい。5月半ばから、テヒマニ4号目の制作が本格化して必要があって街をうろつき出した間に。 ただ面白いのは、これまでのようにどこか衝動に突き動かされるというか、みょうな焦燥感みたいなものが自分の中から消えて、自分自身がのびやかに、肩の力が抜けてきた感じがあります。ただ動く時はよく動き、動かない時は徹底的に動かない、という基本的なスタンスはさほど変わらないんじゃないかなぁとも思っています。私はわりと好不調の波が激しいので。 世間的には、体調にしろ精神的にしろ安定していないというのは、あまり口にしてはいけない空気があります。以前働いていた職場の同僚は、体調が悪い人のことや精神的な問題がある人のことを忌み嫌っていたし、ただそれだけのことで馬鹿にしていました。 でも私にしてみれば、好不調なんて人間誰しもあるはずなんだから、誰かが調子が悪い時は気兼ねなく休んで欲しいし、休んだってあ...2019.06.03 01:47