海沿いの温泉にやってきた。
もうもうと湯煙の上がるどこかひなびた温泉地。まだ温泉が好きではなかった頃、旅行中に通りがかりその湯煙とかつての繁栄とがぎゅっと凝縮された風情の街並みがずっと心の中に引っかかっていた場所。
この街に、海を見にきた。
それはもう、衝動的に。
時勢を考えると移動することや旅行というものを控えるべきだったかもしれないし、昨日は睡眠も体力も足りていなかったし、翌日の昼には地元で約束もあり、片道2時間の運転をして出かけることなどあまりにも馬鹿げている。けれど、それをせずにはいられない時だった。
夕方頃に着き、目の前に海が広がる温泉に入り、地元の良い感じの酒屋でスパークリングワイン、瓶ビールとシードルと栓抜き、店のおすすめの柚子胡椒と酒粕でつけたクリームチーズとウニ豆を買い、防波堤で1人飲む。
温泉とアルコールで火照った身体に、海の風が心地よい。
瓶ビールはハートランドで、それはこの2ヶ月の間に私が小塩の家で好んで飲んでいたものだけれど、不思議と美味しくなかった。たぶんハートランドを飲んでいた時の思い出がとても苦いものになってしまったからなのだろうし、たぶん私はこの先、ハートランドを美味しいと感じることはない。それは悲しいことではあるけれど、いつか良い思い出になる時が来るのだろう。
さて、そろそろ夜が明ける頃。
本を持って、コーヒーを買って、また防波堤に行こうと思う。
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