いつからマフィンって大好きだったんだろう?
一番ちゃんとした記憶にあるのは、茨城で行きつけだったパン屋さんのマフィン。次がスーパーで何個入りかで売っていたみょうにしっとりしたマフィン。
どちらも、食べている時に「あー、マフィンの香りだ」という独特の香りがあるのです。たぶんパン屋さんもマフィンの素のような何か配合されたものを使っていたのでしょう。それはもう独特の香りで、匂いフェチの私としては、マフィンの香りがかぎたくてよく買ったものでした。
一番悲しいマフィンの思い出は、高校1年生の時の同級生Sさんが作ってきてくれたマフィンです。彼女はクラスに馴染めないでいました。始まりはちょっとノリが過剰だよね、とかそんなことだったと思うのですが、とにかく所属するグループがSさんにはなかった。
私と私の友人が、彼女の居場所を作ってあげられるはずだったのに、太っている自分と太っている彼女とが連れ立つということに、高校生で自意識過剰で自分のことしか考えられなかったとんでもなく傲慢でバカでひどい私は耐えられず、やんわりと距離をとり続けたのでした。太っている自分がいつ仲間はずれになるか心配だったのかもしれません。
Sさんがみんなとの距離を詰めるのに一生懸命作ってきたマフィンを、女子だけで集まって食べるお昼時にもらったのですが、私はあとで友人に「あれってマフィンの素を使ってるよねー」とちょっと半笑い気味に言ったのです。友人の反応は覚えていません。
Sさんは2学年に上がって以降のクラスにとても馴染んでいたようで、それは私にとっても本当にほっとすることだったのです。太っている同士で連れだつことに耐えられなかったというだけで、彼女のことが嫌いなわけではなかったのですから。
私が彼女とした最後の会話は高校3年の2月。学校の下駄箱から教室へと上がる、広々とした吹き抜けの階段の踊り場でのすれ違いざまでした。彼女が看護系の大学に受かったと小耳にはさんでいた私は、彼女に声をかけたのです。
「受かったんだってね、おめでとう」と。「うん、ありがとう」と言った彼女の表情は、完全な笑顔ではなかったけれど、完全な拒絶の顔でもなかったように思います。
濃い緑の制服に茶色のベスト。さらさらとした美しくきれいな黒髪、真っ白でふくふくとしていつもピンクに染まっていた頰、くりくりとした黒目がちの愛らしい瞳。ゴマフアザラシのように可愛らしい子でした。
0コメント