先週のある夜、ふらふらと夜の街を歩いていました。
ある路地の、ある家の前。引き戸の玄関がほんのわずかだけ開いていて無用心だなと足を止めたのです。そうして、なんでかわからずふと屋根を見上げました。
そこには、猫がいました。凛とした空気を漂わせた猫が。
私はその猫を思わずじっと見つめ、その猫もじっとこちらを見ています。それはあまりにも不思議な時間でした。お互いが目をそらさずに見つめ合っている、静かで濃密な時間。
その素晴らしい時間は、路地を歩いてきた女の子たちの登場によって打ち破られ、私もなんだか気まずくてその場を後にしました。
けれど、後ろ髪引かれるものがあり、十分ほどしてから舞い戻ってみるも猫の姿はなく。
おそらくあの猫は、その日登っていた満月を、屋根の上から眺めていたのです。春のおぼろな月をぴんと背筋を伸ばし私をじっと見たように、ただただまっすぐに月を眺めていたのです。
見てもいないそんな光景がまぶたの裏に焼きついています。
たった独りで満月を眺めるあの猫の美しさ。私はその姿と生き方に魅入られてしまったのかもしれません。
0コメント