ちょっと老朽化のすすんだ感じの、煙がモクモクとしていて、美味しくて、大衆的な価格で、まるで昔の学食のような雰囲気の場所で、岡本太郎の絵を観ることができるなんて、なんだか不思議な感じです。
岡本太郎。彼の本をはじめて読んだのは大学2年のこと。大学のちょっと気になる同級生が岡本太郎のファンで、私も影響されて読みはじめたような気がします。一冊目は『自分の中に毒を持て』で、あと何冊かそんな感じの「どう生きるべきか」がテーマの本を読んだような記憶があります。
いろいろと若気のいたり感はあるのですが、とても良い読書体験でしたし、なにより岡本太郎の本に出会えたのだからとても良かったです。
私にとって画家の人たちが深く世界や物事を捉えていると考えるようになったきっかけが、岡本太郎でした。彼の著作を読むようになって、「芸術は爆発だ」で知られる奇人的な芸術家と思っていた人がきちんとした、それも相当な知識に裏打ちされていることにびっくりしたのです(それもそのはず、彼はソルボンヌ大学で哲学を学んでいたのですから、知識があるなんてものじゃなかったのですが)。
今手元にあって、読み終えている本は2冊。
1冊は『岡本太郎の東北』。この本は岡本太郎が東北を取材旅行した際に、本人が撮っていた写真が集められたものです(同じシリーズで『岡本太郎が撮った「日本」』という本も持っていたはずで、そちらの方が好きだったのですが)。
彼の写真には、そこに暮らす人々の生活感や空気感、彼らが生きていることの圧倒的なリアリティが写し出されているのです。彼の好奇心の強さが写真からひしひしと伝わってきます。
そしてこの本が好きなのは、後ろの方にネガをそのまま焼き付けたコンタクトプリントがいくつか載っていたところです。それまでコンタクトプリントに興味はなかったのですが、それを見た瞬間に、「写真を撮るということは対象に深い興味があり、自分でも言いようのない何かを感じているからなのだ!」と当時写真を撮りはじめて1〜2年目ぐらいだった私は衝撃を受けたのです。
この本は今でいうとオリエンタリズム的視点が含まれていなくもないような気がしますが、それでも彼の呪術的な、プリミティブなものを求める欲求のようなものが強く感じられて好きです。
もう1冊は『日本の伝統』。
彼は「伝統」あるいは「伝統主義者」たちが「古いものをカサにきて、現実を侮辱」していることに憤りこの本を書いたとのこと。茶の湯を例にとり、彼はこうも書いています。「彼らは決して伝統主義者ではなかった。古い伝統をたくましくのりこえたモダンアートの創始者だったのです。」と。
一時期、伝統とは何かを必死に考えていました。岡本太郎がいうところの「伝統主義者」たちを目のあたりにし、今現在、必死に努力している人々のことを「伝統」という一言で片付けようとしているのではないかと、強い疑問を感じていたのです。
岡本太郎はこうも書いています。
伝統は自分にかかっている。おれによって生かしうるんだ、と言いはなち、新しい価値を現在に創りあげる。伝統はそういうものによってのみたくましく継承されるのです。形式ではない。受け継がれるものは生命力であり、その業ー因果律です。
と。素晴らしいものを最大限の努力をしてうみだしている人こそが、伝統を受け継ぎ、次に渡す人であるという、私の実感とぴったりくるものでした。そして、たぶん一生大事にする言葉です。
ただ、岡本太郎のいう「伝統」はあまりにも崇高すぎて、振り落とされる人が多すぎるとも同時に思います。それだけのことをできる人はごくごく限られた人であり、彼からすれば「伝統」の上にあぐらをかいているように見える人が多いのかもしれないし、そんな人が大半でしょう。でもそれはあぐらをかいているわけではなく、そこがその人たちの限界なのです。
けれど、そんな大半の人のなかに、「伝統は自分にかかっている。おれによって生かしうるんだ」と思っている人がいて、すこしでも周りに影響を与えれば良いのではないかと、私は思います。岡本太郎が過激に思えるような言葉を連ね、それに人々が影響されるように。
実をいえば、岡本太郎の絵はさほど好きではないのですが、岡本太郎の絵を観たことによって自分がいかに彼の言葉に影響を受けていたかを感じました。
これからじっくり彼の著作を集めて読んでいこうと思います。たぶん、はっとする考えや言葉がごろごろと転がっているはず。また影響を受けるのも悪くない考えです。
それに今年の3月から公開している太陽の塔の内部も見に行きたいところ。太陽の塔の公開時にはアフリカの仮面などが展示されていたと聞きますが、岡本太郎の縄文土器やアフリカの仮面などの呪術的なアートへの視点も大好きなのです。太陽の塔と民族博物館に行って、その両方を満たすのって最高の思いつきです。学校とテヒマニが終わるころに行けたらいいな。
あぁ、無性にプリミティブアートが見たくなりました。とりあえず、今度の日曜あたり九州国立博物館の常設展示の縄文〜弥生時代の土器やら木のドアやら、民族学コーナーを見に行こうかな。
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